僕の探偵物語 vol.1 夏とお墓と穴 (編集部修正版)

 

中平社長の週刊フィクションかノンフィクションかの小説書いてもらえることになりました。探偵時代の話です。コンプラ的に危険なことには倉星ががっつり墨してますので、安心してお読みいただけます。

夏とお墓と穴

あつい、くさい、そして痒い、しかしやらなければならない。

8月中旬の東京の夜は昼間の激しい太陽光線をよく吸ったアスファルトから出る熱気と湿度で不快指数はMAX、汗も噴き出していてカメラも手汗でベタベタしていた。

ここは繁華街と住宅の間にある墓地でたまに吹く風がひんやりと心地いい瞬間もあったが、それは5分に一度ぐらいで、ほとんどの時間は不快な状況を耐える時間だった。

そもそも尾行調査の大半の時間はこの待つという時間で、9割の時間は車の中や物陰で張り込みをしている時間が大半だ。ベタベタして気持ち悪い。

慣れている状態ではあるがたまにこういった特殊な場所特殊な状況に陥るときもある。

こんな状況に陥ったのは、対象者を失尾してからすでに1時間がたっていて先回りして自宅に向かい、対象者の家の横にある墓地に潜んだからだ。

失尾後に何もせずに帰って社長から怒られるのは嫌だし、何とか家の入りの絵だけは撮ってやろうと思っていた。ずるい考えだが家の入りの絵さえとってしまえば失尾したこともバレやしない。

1名で尾行していている割には途中までは完ぺきだった、対象者は朝自宅をでて出勤、お昼に一人でランチ、退社し会社の最寄の駅ビルで買い物、そのあと電車に乗り込んだ、割と混んでいたので5m圏内にはつけていたが、まっすぐに自宅に帰ると”思って”いた。

それまで対象者は電車を降りる雰囲気を発していなかったのと、この”思って”が油断と甘えを生み自宅の最寄駅の2つ手前の駅で急に降りるとは想像できてなかった。

「父親の依頼した探偵に尾行されているので尾行してほしい」

依頼者は30代後半のサラリーマンの男性のA、依頼者が対象者、対象者が依頼者の変な案件だった。

Aが別の探偵に尾行されていることはなく。Aの被害妄想、自意識過剰からくる依頼であることはすぐにわかった。

ただ僕にとっては他人事ではなかった。

僕は10代後半で■■■■■■で、■■■■■■■に苦しめられたことがあった、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■考えて精神を病みかけた青春のハートフルな思い出だ。■■■■。■■■■■■■■■■硬くなり、すれ違う人■■■■■■■■■■、マンションの屋上から■■■■■■■■、スーパーヒーローの登場だ。■■■■■■■■■■■自分の汗のにおいが懐かしい。

人間の心は弱く疲れやすい。誰もがそういう時期がある、心が疲れると元々の性格が優しい人はふさぎ込み、激しい人は攻撃的になる。

隣の家の住人が自分を嫌っていてすれ違うたびに舌打ちする。

クーラーのすき間から盗聴されている。

自分より弟の方が贔屓されている。

日常の些細な出来事から人の心は闇に落ちていく。魔が差すとはよく言ったものだ。

そういう人には「誰もあなたのことなんか見てないし、気にもしていない。」ってことに気が付いてほしい、僕が尾行して見てあげて、あなたの不安は思い込みだってことをまずは証明する。まぁ1時間ほど失尾しちゃったんだけど。

そんなことを考えていたら、Aは駅の方向から自宅に帰ってきた。後ろを気にすることもなく部屋に入っていく姿を墓地に仕掛けておいたカメラで撮影した。大丈夫、あなたの父親はあなたを恨んでも憎んでもいない、愛しているはずだ。そうあってほしいしそういう世界で生きてほしい。

墓地に吹く風がひんやりと僕の心を癒した。

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